『The Goal』(Eliyahu M. Goldratt)は、物語形式で、ボトルネックの発見、部分最適と全体最適の違い、改善への本質に迫ったビジネス現場でのリアルを映し出しています。世界中の企業に所属するマネージャーに影響を与え続けています。『ザ・ゴール(The Goal)』で提唱された「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」を通して組織を劇的に変える「5つのステップ」が紹介されています。
組織のパフォーマンスは、常に「たった一つの制約(ボトルネック)」によって決定されます。
その制約を管理するための「継続的改善の5ステップ」がIT現場の文脈で解説されています。
『The Phoenix Project』の理論的支柱でもあります
1. 制約理論(TOC)の5段階(The Five Focusing Steps)
| ステップ | 名称 | IT現場での具体的なアクション |
| ステップ1 ボトルネックを見つける | 制約条件を特定する | どこで仕事が滞留しているか(例:テスト待ち、特定のベテランの承認待ち)を見極める。 |
| ステップ2 ボトルネックをどう活用するかを決める | 制約条件を徹底活用する | ボトルネックの人材に「会議の議事録作成」などの雑用をさせず、その専門能力を100%発揮させる。 |
| ステップ3 他のすべてをステップ2の決定に従わせる | 制約条件以外のすべてを従属させる | 【重要】ボトルネックの処理能力以上に仕事を投入しない。全体のペースを「制約」に合わせる。 |
| ステップ4 ボトルネックの能力を高める | 制約条件の能力を強化する | 追加の人員投入や自動化ツールの導入により、ボトルネックの処理能力そのものを高める。 |
| ステップ5 ステップ4でボトルネックが消滅したら「ステップ1」に戻る | 惰性による制約の発生に注意し、最初に戻る | 制約が解消されると、別の場所が新たな制約になる。常に全体最適を繰り返し追求する。 |
2. 注意:「ステップ3従属させる」が最も難しい
5つのステップの中で、理論上は簡単でも実践が最も難しいのが「ステップ3:従属させる」ことです。
これは、ボトルネック以外のリソースに対し、「ボトルネックのスピードを超えて働いてはいけない」と命じることを意味します。
- 効率の罠: 一般的なマネージャーは、部下が暇そうにしていると「何か仕事を振らなければ」と考えてしまいます。
- カオスの発生: ボトルネック以外の場所で100%の稼働を目指すと、未完了の仕事(WIP)がボトルネックの前に積み上がり、現場は混乱し、リードタイムは逆に伸びてしまいます。
「他のステップは、あえてフル稼働させない」という勇気ある決断こそが、組織全体の流れをスムーズにする鍵となります。
3. 『ザ・ゴール』における「3つの指標」と在庫の本質
ゴールドラット博士は、経営状況を正しく把握するために、従来の会計指標ではなく以下の3つを重視しました。
- スループット(Throughput):販売(デリバリー)を通じて収益を生み出す速度。
- 在庫(Inventory):販売しようとする物を購入するために費やしたすべてのお金。
- 業務費用(Operating Expense):在庫をスループットに変えるために費やすお金。経費。
■ ITにおける「在庫」の再定義
IT現場において「在庫」は目に見えません。しかし、「着手したがリリースされていないコードや仕様書」は、すべて在庫です。
さらに厳密には、その成果物を作るために支払った「エンジニアの工数(労務費)」も、収益を生まない限りは「眠っている在庫」と同義です。
この「見えない在庫」を最小化し、いかに早く「スループット(価値提供)」へ変換するかが、DevOpsの本質的な目的なのです。
ボトルネックの考え方は、経費削減を狙ったものではなく、スループットを上げることを中心としています。
4. 『The Phoenix Project』への橋渡し
『The Phoenix Project』の主人公が、エリックから教わったのは、まさにこの理論を工場からITへ読み替えることでした。
- 工場の機械 = ITのビルドサーバーや特定の専門家
- 仕掛品(WIP) = チケットシステムに眠る大量の未完了タスク
これらを同一視し、「ドラム・バッファー・ロープ」/「バッファー・マネジメント」の考え方を取り入れることで、IT現場のカオスは「管理可能なプロセス」へと進化します。
■ドラム・バッファー・ロープ—
■バッファー・マネジメント—–
『ドラム(太鼓:全体のペースを決める制約)』は誰ですか?」


