
産業界のニーズを研究テーマにする
社会で「本当に求められている課題」を研究テーマに変える際、「自分が興味を持った技術」から出発する人は多いです。しかし近年、卒業研究などでは、社会や産業界の実際のニーズとどれだけ結びついているかが強く問われるようになっています。
産業界では、DXやAIが進む一方で、「技術はあるが、現場で使いこなせていない」、「仕組みが古く、改善できていない」といった課題が数多く存在します。
本記事では、産業界で実際に求められている具体的なニーズを示しながら、それらをどのように研究テーマへ落とし込むかを解説します。
顕在化している産業界のニーズ
1. 人手不足を前提とした業務設計
多くの業界で共通しているのが、慢性的な人手不足です。
具体的には、「製造業:熟練者の引退による技術継承問題」「物流業:人手不足による配送効率の低下」「医療・介護:記録業務に時間を取られる現場」これらの現場では、「人を増やす」のではなく、業務をデジタルで再設計する研究、AIを活用して自働化(ニンベンのついた自働化)させる研究が求められています。
👉 テーマ例
- 業務フローの可視化による作業削減モデルの提案
- センサー・データ活用による作業支援システム設計
2. データはあるが「活用できていない」
多くの企業では、すでにデータが蓄積されています。しかし、「データが分散している」「分析できる人材がいない」「活用方法が分からない」という理由で、価値につながっていません。
👉 テーマ例
- 中小企業向けデータ活用プロセス設計
- 可視化ダッシュボードによる意思決定支援
この分野は、高度なAIを使わなくても研究価値が高い点が特徴です。
3. DXを進めたいが「何から始めるか分からない」
DX推進が求められている一方で、現場では「DXと言われても、何をすればよいのか分からない」という声が多くあります。特に、中小企業、地方企業、教育・公共分野では、導入に向けた指針そのものが不足しています。
👉 テーマ例
- DX導入ステップモデルの提案
- PoC(概念実証)を前提としたDX設計手法
PoC(Proof of Concept)は、概念実証と訳され、新しいアイデアや技術・サービスなどの実現可能性を検証するプロセスです。
本格的な開発を行う前にプロトタイプとして検証を行います。これは、アイデアが技術的に実現可能かどうか、期待される効果が得られるかどうかを確認し、また、無駄なコストや工数を削減しながら、サービスの立ち上げや技術の導入を効果的に進めてゆくことを指しています。
4. AI・生成AIを安全に使いたい
生成AIの普及により、「情報漏えい」「誤情報」「判断責任」といった問題が顕在化しています。産業界では、「AIを使うな」ではなく、「どう使えば安全か」を示す研究が強く求められています。
👉 テーマ例
- 生成AI活用ガイドライン設計
- 人が確認する前提のAI運用モデル
産業界のニーズを研究に落とす際の注意点
産業界のニーズを研究テーマにする際には、注意点があります。それは、企業の要望をそのまま研究にしないことです。研究では、「一般化できるか」「他分野にも応用できるか」「学術的な問いになっているか」が重要になります。
また、現場制約(時間・コスト・人員)を無視したテーマは、実証が難しくなります。「小さく試せるか」という視点を持つことが大切です。
背景となる社会動向・制度
- Society5.0 における産業構造変化
- DX推進政策・産業界ガイドライン
- AI活用に関する国内外の議論
- 中小企業DX・人材育成施策
産業界ニーズから研究テーマを作る手順
研究テーマ化の基本ステップは次の通りです。
- 業界・現場の困りごとを調べる
- 問題を構造として整理する
- ICTで変えられる部分を見つける
- 小規模なPoCを設計する
- 評価指標を設定し検証する
この流れを使えば、卒業研究・PBL・共同研究にも展開可能です。
おわりに
産業界ニーズを起点にした研究は、「社会で役立つかどうか」を自分の研究で確かめる行為です。特別な技術よりも、現場を理解し、構造を整理し、改善を提案する力が求められます。その視点こそが、研究を社会につなぐ第一歩となります。


