異質なものが融合するとき

8.COLUMN

ロケット・ササキ、リンゴマンゴー、そしてiPhone
「異質なものが融合すれば、必ず新たな価値が生まれる」。
この言葉は、ロケット・ササキの異名を持つ、元・SHARP副社長・佐々木正氏の思想を象徴するものです。日本のエレクトロニクス産業がまだ国内志向だった時代に、佐々木氏はいち早くアメリカのロケット技術や半導体技術に注目し、それらを日本のものづくりと結びつけようとしました。その姿勢は当時、異端視されることもあったと言われています。

佐々木氏にとって、「異質」であることは排除すべきものではなく、むしろ未来を切り拓くための材料でした。異なる文化、異なる技術、異なる価値観が交わることで、単独では決して生まれなかった発想が芽生える。その信念が、後の日本の技術発展を下支えしたことは広く知られています。
この話を思い起こすとき、私はしばしばリンゴとマンゴーの接ぎ木の逸話を思い出します。

かつて農業の常識では、寒い地域で採れるリンゴと熱い地域で採れるマンゴーを接ぎ木することは不可能だとされていました。佐々木正氏は、台湾から取り寄せた千本近いマンゴーと、信州のリンゴの苗木を使い、何百回という実験を繰り返しましたが、当初はことごとく失敗に終わりました。
しかし、氏はそこで諦めるのではなく、「これは数学の問題である」という独自の仮説を立て、熱帯で育つ植物は樹液の通る穴が大きく、寒帯のものは緻密であるとの情報を掴み、この構造の違いゆえに、水平に切り落として接いでも穴の太さが合致せず、栄養が届かないことに気づいたのです。
氏は、それぞれの細胞組織が最も効率よく重なり合う角度を数学的に算出しました。そして導き出された角度で「斜め」に切り、接ぎ木を施したところ、ついに不可能を可能にし、美味しい新品種を誕生させたのです。
その果物は、今もなお日本の農家によって育てられ、海を越えて世界へと届けられています。目に見える名声よりも、自分の生み出した知恵が時代を越えて誰かの役に立っていること。その事実に、氏は静かな喜びを感じていたのです。
リンゴマンゴーは、完熟して自然に落ちた実だけを収穫するという、非常に手間のかかる方法で育てられています。効率や大量生産とは真逆の発想ですが、その結果として、他にはない甘さと価値が生まれました。異なる育成思想を持ち込み、従来の常識と融合させた結果だと言えるでしょう。

この「異質なものの融合」といった精神は、稀代の経営者たちにも共通しています。孫正義氏は、国境や業種の壁を越えて通信・AI・投資を自在に組み合わせ、未来を起点とした決断を下し続けています。その姿勢の根底には、佐々木正氏の時代を見通す先見性と重なるものがあります。

また、iPhoneは、電話、コンピュータ、音楽プレーヤー、そしてインターネット。これら本来は別々であった技術を一つの筐体に束ねたことで、私たちの生活様式そのものを塗り替えました。この革新は決して偶然の産物ではなく、佐々木氏の支援を受けたスティーブ・ジョブス氏によって異質な要素を恐れずに結びつけるという確固たる思想から生まれたものだと感じています。

一見すると無関係に思える「リンゴ」「マンゴー」といった断片的なエピソードは、実は「異質なものを融合させる勇気」という一本の線で分かちがたく結ばれています。

私たちはつい、居心地の良い同質性のなかに安住してしまいがちです。しかし、真に新しい価値が芽吹くのは、自分とは異なるもの、未知なるものを受け入れ、それらを掛け合わせた先にあるはずです。変化の激しい現代において、違いを「隔たり」ではなく「可能性」として捉え続けること。その勇気こそが、混沌とした時代を切り拓く唯一無二の原動力になるのではないでしょうか。