
思想が受け継がれていくということ
日本のエレクトロニクス産業の歴史を語るとき、「ロケット・ササキ」の異名を持つ元・SHARP副社長、佐々木正氏の存在は欠かすことができません。そして興味深いのは、その思想が、スティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏といった世界的な経営者たちと、静かにつながっている点です。
佐々木正氏は、戦後間もない時代からアメリカの最先端技術に注目し、半導体やロケット技術の重要性を日本に持ち帰ろうとしました。当時の日本では、海外技術、特に軍事や宇宙と結びつく分野は距離を置かれがちでしたが、佐々木氏はそこに未来を見ていました。「異質なものを恐れず、融合させることが新たな価値を生む」という姿勢は、当時としては極めて先進的なものでした。
その佐々木氏が、スティーブ・ジョブズ氏に大きな影響を与えた人物の一人であることは、あまり知られていないかもしれません。若き日のジョブズ氏が日本を訪れた際、佐々木氏と出会い、日本的な美意識や技術思想に触れたことが、後のApple製品の思想形成に影響を与えたと言われています。無駄を削ぎ落とし、本質を追求する姿勢、そして技術と文化を結びつける考え方は、確かにAppleの製品哲学と重なります。
一方、孫正義氏もまた、佐々木正氏から直接薫陶を受けた人物として知られています。若き日の孫氏は、佐々木氏に才能を見出され、起業家としての道を後押しされました。孫氏が掲げる「情報革命」という壮大なビジョンや、未来から逆算して現在を判断する思考法には、佐々木氏の先見性が色濃く反映されているように感じます。
ジョブズ氏と孫氏は、国も文化も異なりますが、共通して「技術は単体では意味を持たない」という認識を持っていました。テクノロジーは、人の生活、価値観、社会構造と結びついたときに初めて力を発揮するのだと思います。その考え方は、佐々木氏が一貫して主張してきた「融合」の思想と深く通じています。
佐々木正氏は、自らが表舞台に立つよりも、人を育て、思想を託すことを選んだ人物だったのかもしれません。その結果として、ジョブズ氏のiPhoneが世界を変え、孫正義氏がAI時代を見据えた投資と構想を進めています。直接的な上下関係ではなく、思想の継承という形で、時代を超えたつながりが生まれています。
技術や製品はやがて更新されますが、思想は人を介して生き続けます。
佐々木正氏、スティーブ・ジョブズ氏、孫正義氏を結ぶ線は、まさにそのことを示しているように思います。未来を見据え、異質なものを結びつける勇気。その精神こそが、次の時代へと引き継がれていくのではないでしょうか。


